Survey report > Research theme

Research theme
~ 調査テーマの設定 ~
日本メーカーのASEAN市場進出を想定して

渡辺 隆史

「こっち来たら、インドネシアの人は仕事中もいつもなんか食べてて、会議中にコロッケとか出てくるねん」
海外部門を立ち上げるべく単身旅立ったBEA(BUSINESS ENGINE ASIA)の小桑さんから昨秋skype越しに聞いた話である。私たちをこの旅へ駆動するものが、たとえ見知らぬ食文化への単純な好奇心であったり、素敵な人類学者比嘉さんへの強い関心であったとしても、その意義を皆さんにお伝えするには「器」としての調査テーマの設定が必要になる。そこで、「ジャカルタの『食と健康』」を大きなテーマで掲げつつ、より具体的な仮想クライアントからのオファーを設定することにした。

仮想ケース
-
日本の食品メーカーA社
-
インドネシアの市場進出を想定
-
日本のトレンド“ヘルシーな食品”として、あるカテゴリーでNo.1ブランドの「商品b」をインドネシアでも市場投入したい
そもそも、いわゆる「デザイン思考」が注目された背景の一つとして、日本など先進国市場の成熟が挙げられる。その突破口となるのがイノベーション=新しい需要を創造する商品/サービス開発であり、もう一つが海外市場への進出だろう。特に近年、日本企業に注目されているのが東南アジア(ASEAN)市場。なかでもインドネシアは、大変に魅力的な市場である。

インドネシア市場の魅力
-
人口が2億6千万人、平均年齢28才。人口が日本の約2倍で若く、経済成長が続く。
-
親日国であり、インドネシア人は日本(製品)へのあこがれを持っていると思われる。
-
すでに海外進出している多くの日系企業がインドネシアへの参入を検討している。
現地日本人からのレポート
-
国際統計でも肥満者が多いといわれ脳卒中や心臓疾患による死亡が深刻。健康意識が高まっているはずだが・・・
-
一日中、常に何か食べている状態であまり健康に対しての意識がない。
-
仕事中や会議中にもコロッケなどが出てくるらしい。
-
ペットボトルのお茶が甘い。
-
油や糖分はたくさん摂っていて気にする様子はない。
-
でも、加工食品の食品添加物は厳しくチェックする。
-
暑いので、とにかく歩くのが嫌い!
※実際に、長期駐在していた弊社社員のコメントに
基づいています。


【A社の結論】
まだまだ健康意識は日本に比べて低いが、状況は深刻。「美味しいが健康にも気を配っている」という市場にない価値の商品bを投入すれば、日本と同じような高価格でも、富裕層~中間層を中心に市場に受け入れられるはず!
しかし、恋は盲目。インドネシア市場を冷静に観察すると以下のような側面も見えてくる。
気をつけないといけないこと、疑問点
-
購買力は本当に十分か? 一人当たりGDPは成長しているが、実際には世帯の月間支出が4万円以下の人がいまだ半数以上いる(データ出所により違いがあるが月数万円で暮らす世帯がまだまだ多いことは確か)。
-
流通環境を正しく把握しているか? 食料品売り上げの伸びは著しいが、いまだに伝統的店舗の売上が80%を占めている。
-
自社製品の市場は本当にあるのか? 事実として、食事に揚げ物が多い・野菜を食べないなど、日本とは生活習慣=市場環境が異なる。例えばヨーグルト市場は日本の10分の1に過ぎない。
ここで浮かび上がってくるのは、次のような疑問である。「果たして、マーケティングやコミュニケーションは日本でのそれと同じ考え方で良いのか?」 つまり、我々は知らず知らずのうちに日本市場の先入観を持って市場を見てしまっていないか。その結果、我々が気づいていないズレがあるのでは? 懐疑的に見る必要はないけれど、新事業を始めるときに過度な驕りや思い込みは禁物でもある。
そんなわけで、今回は以下のような調査を現地で実施することにした。

調査設計
-
目的
インドネシア、特にジャカルタにおける「食と健康」についての習慣と価値観を調査する。
-
疑問点
-
インドネシアで、食と健康はどのぐらいどのように結びついているのか?
-
(1を踏まえて)インドネシア市場では、商品とはどのようなポジショニングであれば受け入れられるのか?
-
手法
現地の方への家庭訪問調査(2名)人類学者比嘉夏子さんと共に行うフィールドワーク(1日)
なお、今回は予算を切り詰めての自主調査プロジェクトなので(飛行機も極狭のLCCでしたし!)、調査のサンプル数やフィールドワークの場所、日程などはだいたい通常の半分ぐらいのスケールで実施していることも書き添えておきたい。
