Prologue

 

UCI Lab. 所長/ディレクター

渡辺 隆史

2018年2月22日、なんとなく語呂が良いこの日に私はこの原稿を書いている(猫の日らしいです)。私たちUCI Lab.は2012年9月に産声を上げて以来、丸5年を迎えることができた。もちろん、順風満帆な時ばかりではなかったけれど、それなりに嬉しい瞬間が日々あり、振り返るとチームとしてはずいぶん成長を遂げたと思う。私たちは眩しいような破竹の成功を収めるベンチャー企業ではないけれど、もしスポーツチームや音楽のバンドに例えるならばこの5年間で “イイ感じに仕上がって来ている” のではないか。次の5年間で私たちは「対話のプロ」として熟達の道を歩むのだろうと思っている。

ところで、我々の仕事は説明が非常に難しい。「デザイン思考」とか「コンサルティング」というコトバを使えば手っ取り早いのだけど、そういうふうに単純化してしまうことにはどうしても違和感が残る。では、私たちは何者なのか。ドヤ顔で「独自のメソッド」などとうそぶくほどイノセントではないけれど、UCI Lab.ならではのある種の視点やパターンといった特徴は形成されてきたと思う。あらためて振り返ると、私たちは幅広い分野におけるアカデミックな知見や概念をビジネスの現場で実践することを重視してきた。そのような学習やネットワークの蓄積を経て、日々の私たちがどんなふうにクライアントや生活者と対話をしているのか。そこに生まれる関係性や位置づき方や視点、大切にしていることはナカナカ一言では表現し難い。おそらく、誰でも一目で理解できるよう単純化するよりも、実際のプロセスを通じて初めて伝わることでないだろうか。とは言え、個々のプロジェクトは機密性の高いものなので広く公開できない。それなら、いっそ自分たちが自分たちへの発注者になってプロジェクトを行い、そのプロセスを丸ごとさらけ出してしまおうというのが、このOPEN Lab.企画の発端である。

そんなことを考えていた中で、昨年末に二つの重要な出来事があった。一つはUCI Lab.の母屋であるヤラカス舘に海外部門として「BUSINESS ENGINE ASIA (BEA)」という新組織ができたこと。もう一つは私たちと人類学者 比嘉夏子さんとの出会いである。比嘉さんはトンガなどをフィールドに研究をしてこられた生粋の(?)人類学者で、最近はビジネスにおけるエスノグラフィーの現場でも活動していらっしゃる、私が言うのも何だが変わった方である(もちろん良い意味で)。ビジネスにおけるエスノグラフィーというのは、もちろん源流を人類学に持っていて共通するところもたくさんあるけれど、特定の目的のために限られた時間内で行うことが違いであり制約でもある。そして、もう一つの決定的な特徴が、ビジネスにおいては多くの場合「チームで行う」ということである。人類学においては、それぞれのフィールドには(多くの場合)個人で入り、その後の考察も個人で行う。その個人の内面をぐるぐる廻るリフレクションの濃さというか、どう客観的に捉えようとしたって滲み出てしまう調査する側される側双方のイキイキとした「らしさ」というか生々しい関係性がこの学問の魅力だと思うのだけど、とにかく学問におけるエスノグラフィーとビジネスにおけるそれは、営みにおいては結構違ったところがあるのかもしれない。私たちは比嘉さんと何度かお話をする中でそんな違いをいちいち面白がりながら、もっとそこにある何かを見える化したくて「何か一緒にしたいですねー」と話していた。

ちょうどそんな時、BEAと一緒にインドネシアで自主調査を行う話があり、そこに比嘉さんに参加してもらうことになった。テーマは「ジャカルタ(インドネシア)における食と健康」。日本の生活の現場で行うエスノグラフィーを一緒にするのも面白そうだけれど、あえて全く違う現場で私たちと比嘉さんの視点を「対話」してみたら、何かしら面白いことが起きるのではないか。道中では、UCI Lab.の私と大石瑶子、人類学者の比嘉さん、去年はジャカルタにほぼ半年滞在していた弊社BEAの小桑で、それぞれが1日ずつリーダーになって、その人の流儀で「食と健康」を探る旅をする。その日のリーダー以外のメンバーは、そこに参加して感じた気づきを場に還元しあう・・・という二重構造の建て付けになっている。4人は、インドネシア“を”調査しながら、インドネシア“で”どんな自分に気づき、どんな新しいものを生み出すことができるのか。このサイトでは、道中でそれぞれが銘々の視点で面白がるサマを、まさにプロセス丸ごと紹介していきたい。そして、そんなことをとてもとっても面白いと思っているのがUCI Lab.です、ということが伝われば良いなぁと思っている。

そういうわけで、私たちは比嘉夏子さんという素敵なパートナーと共に、これからエアアジアのD7 523便に乗ってジャカルタへ旅に出る。物理的な意味でも旅だけど、UCI Lab.の成長プロセスとしてもとても面白い旅になるはずである。帰ってきたときに私たちの何が変化しているのか、それはこれからどんな影響を与えるのか。F1ドライバーは予選後のインタビューでこんな言い回しを好んで使う。

「(レースで)何が起きるのか見てみよう」。

Casting

渡辺  隆史

UCI Lab.所長/

ディレクター

大石  瑶子

UCI Lab.所長補佐/

エスノグラファー

比嘉  夏子

北陸先端科学技術大学院大学

知識科学系 助教

小桑  謙一

BUSINESS ENGINE ASIA PTE. LTD. 代表

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