What  dose an Anthropologist do?> Essay by herself #2

方法論的気づき

複数視点による、奥行きをもった認識に向けて

比嘉 夏子

今回の旅は、UCI Lab.の渡辺さん、大石さん、BUSINESS ENGINE ASIAの小桑さんと人類学者の比嘉による協働的な試みであり、この旅の経験と振り返り、その後の分析作業を通じて得られた新たな気づきはとても多かった。ここでは特に、調査の方法論に関して気づいた点を記しておきたい。私たちはジャカルタで同じ時間と空間を共有しつつ、これまでの互いに異なるバックグラウンドや経験を活かしあいながら、そうした互いのやりかたを照らしあいながら、そこにある違いを面白がり、不思議がり、またそこから翻って自分の手法についても再考する、といった流れを生みだした。それはこのチームならではの貴重な化学反応だったと思う。そこで浮かびあがってきたポイントは、大きく分けて次のようなものだ

〈人類学調査〉と〈ビジネス(マーケティング)リサーチ〉の違い

ジャカルタでも家庭訪問調査に同行しインタビューの場面をみせていただいたが、このチームの皆さんに限らず、とくにマーケティングリサーチの世界で「インタビュー」に付与される役割の大きさについては考えさせられた。人類学者も現地の人びとから数え切れないほど「話を聞いて」いるが、それがフォーマルな(あるいはある程度まで構造化された)インタビューの形式を取ることは、実は割合として比較的少ない。

インタビューという手法それ自体についての議論は他に譲るとして、例えばアレンジされた枠組みのインタビューのみから情報を集めていると、点としての個人については効率よくある程度まで深く見えてくるものの、その個人と他の個人との関係や、集団・コミュニティ、社会といった広がりを把握する機会に乏しくなりがちではないだろうか。人類学という学問が「文化」や「社会」を見据えてきたというのはつまり、その視点は個から出発しボトムアップで理解していくものの、最終的にはそこに広がる世界を射程にいれ、それを構成する関係性の束をとらえようとしてきた、ということでもある。どこまでも社会的な生きものである私たちの生活は、他者との多様な関わりや、社会での日々の活動に支えられており、そこを含めて点ではなく線や面のようにとらえられたほうがいい。

ジャカルタ2日目に私たちが一緒に「歩いた」ことは、こうした意味で認識の点と点をつないで線を描いていくような作業になったと思われるし、またそれが徒歩だったということにも意味があったと考えている。人間の生活を深く観察し理解しようとするとき、それを俯瞰的に、概要的に見ていては、決してわからない領域に満ちている。それはまるで、映画を早送りで観ながらにしてその一場面の感情の機微を取りだそうとするかのような矛盾をはらんでいるのではないか。もちろんビジネスリサーチにはプロジェクト期間やコストの制約があることも承知している。それでもなお、そこに暮らす人びととわずかな時間でも歩調を合わせ、目線を合わせ、直接的に丁寧に世界を認識する、そうした方法を確保することによって、私たちの他者理解の質はもっと変えられるのではないかと思っている。

〈単身での調査〉と〈チームでの調査〉の違い

チームでの調査を行うとき、均質なチームよりも、立場の異なる人間の、個性豊かな面々で構成されたチームのほうがより面白くなることを経験的に実感しはじめている。今回の旅もそうだった。個々の立場や専門性に応じた役割分担はあるものの、そこでの経験は基本的に全員で共有され、議論され、分析され、その都度に自分では決して気づけなかったような誰かの気づきに触れる。結果としてそれぞれの強みが相乗的に活かされる。このような調査する側の視点の複数性や多様性は、質的量的に視野を広げるだけでなく、人間の生活実感から乖離しがちな無機質なリサーチとは一線を画し、方法論的に奥行きを生みだす。

ただし人びととの関係構築や、対象を「わかっていく」というプロセスの詳細についていえば、私がこれまで人類学で行ってきたような単身での調査とその様式が大きく異なってくる。ひとりの私が複数の現地の人びとに囲まれながら展開するやりとりと、複数人のチームがひとりの現地の方を囲んで展開するやりとりの間に、なんらかの差異がうまれることは、想像に難くない。また他者理解のプロセスの中には、自分自身の認識や論理が覆されたりアップデートされていくことが必然的に含まれるのだとすれば、チームで現場に入ってしまうと、「われわれの論理」が強化されてしまい、なかなか「彼らの論理」へと近づけないリスクもありそうだ。手法の選択は、そこから得られるデータの種類や質を大きく変容させるのだから、ひとつひとつ慎重に吟味し、その都度に適切な形を目指していければよいと思う。

このチームで、UCI Lab.との協働でこそできること

実ははじめてこのチームでご一緒させていただいたプロジェクトが今回のジャカルタ調査だったというのは、なかなか唐突でディープな展開でもあったのだが、前述したような個々の立場の違いが衝突や齟齬を生むわけでもなく、私の人類学的経験と個人的な指向の分かちがたく混ざり合った姿勢に対してさえ、常に関心とリスペクトを持って接していただけたことには、とても感謝している。

明確な成果や利益を生みだすことが短期的に求められるビジネスの文脈において、それとは枠組みの異なる学問的研究の知見を、表面的ではなく本格的に取り入れることは、けっして容易くない作業だ。特にそれが技術的成果のように部分的に、形式的に取り入れやすいものではなく、人類学やエスノグラフィのように、調査から分析の手法、得られる知見と理論、そしてフィロソフィにまで至る領域の仕事を、「使えるかたちで」取り入れるためには、やはり継続的な対話が欠かせないと思う。

このチームの素敵なところは、強い知的好奇心に支えられたメンバーが、可能な限り深く、緻密に世界を理解しようと試みている点だ。手間をかけず、無駄と思われるものを排除し、金銭的価値になる必要最低限のことが分かればそれでいい、そういった姿勢のリサーチも残念ながらいまだ無数にあるなかで、彼らのような創造的で真摯なチームと一緒に探索の旅をできたことは、とても幸福だったと思う。

Essay by herself #2

 

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